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Round Table

バーフバリ 王の凱旋(2017)

 いろいろ面倒で死にたくなるけど、どうせ死ぬなら団信に加入してローンの支払いを始めてからの方がいいなと思った。気晴らしに観る映画はバカなやつがいい。
 私はバカな映画が好きだ。人間のバカな妄想が少しだけ具現化されて映画になる。さらにお金をかけると箱物やテーマパークになる。普遍的な夢や願いが見え隠れしていて、様々な公約数へ想いを馳せながら罪悪感なく時間を浪費できる。どちらかと言うと映画を作る人たちのことが好きなのだろう。
 映画は娯楽であって乗るか乗らないかの二択だ。ときどきアクションやファンタジーを蔑む自称映画通の人がいるけど、こいつ何も分かってねえなと思う。現実味が無ければ駄目らしいが、お前の好きな社会派サスペンスも本業の現場ではありえない言動してるぜ。雛壇芸人と一緒に再現ドラマの演出で喜んでいるうち虚構と現実の区別が付かなくなったんじゃないか。
 考えることに疲れたら『バーフバリ 王の凱旋』でも観ながら少し休んだ方がいい。二部作の後編だが前後どちらから観ても構わない。鑑賞すると知能指数が下がって語彙力を失う代わりに体調が回復することで知られている。つまり週明けから出勤できるようになる。
 冒頭はゴール間近の聖火ランナーへ迫りくる暴れゾウ、逃げまどう民衆、そこへ大型ねぶたを曳いた男が門扉を破壊しながら現れて間一髪でゾウをはねる。従者が「見事だ」と呟く。ゾウはウコンの力で鎮められ、男の前に膝を折る。絶対的なパワーと人徳を備えた神の物語であることが示される。
 神話であるため人間用のセキュリティは通用せず、中ボス未満の敵は一括削除されてしまう。古代インドの王族ならあるいは、と考えそうになるが実際どこからが過剰な演出にあたるのか境目が見えない。儀式のルールもよく分からないし、カタカナで長い名前を言われても覚えられない。ただ凄そうな雰囲気に流されていくばかりだ。
 しかし俳優と脚本がいいので、偉いおばちゃん、悪いおじさん、不運な兄貴ぐらいを認知できれば話は分かる。また、随所に見られるご都合主義的な物理法則は隠喩の可視化である。岩をも砕く拳は岩をも砕く。天にも昇る心地で天にも昇る。まして相愛の者たちが睦まじく踊っていればそういうことだ。まんがインド昔ばなしと割り切れば何も考えずに眺めていられるし、子どもに見せて大丈夫なのかと心配する必要も無い。大丈夫です。
 前編『伝説誕生』はお調子者のストーカーだった息子が親父の武勇伝を聞いて立場を自覚する話、後編『王の凱旋』は武勇伝を最後まで聞いて親戚へ復讐する話である。『王の凱旋』は開始以降の八割が回想シーンで、奴隷剣士の爺さんが語り部を務める劇中劇となっている。
 奴隷剣士は従順な一兵卒を装っているが、彼こそ王の伝説を操る扇動者に他ならない。自身については謀略に巻き込まれた悲劇の忠臣として描かれるが、実はそのほとんどが本人の供述している内容に過ぎない。観客が熱狂しているのも親父の武勇伝に該当する箇所が大半で、構造上は息子も観客も爺さんの昔話に乗せられていることになる。
 武勇伝では、誰が何を話していたのかという言質の管理が徹底されている。正しき王族は決して誓いを破らないため余計な言葉を口にせず、後から嘘になるような台詞はいつも周囲の人間に喋らせている。一方、悪しき者どもは謀略の一部始終を自分の言葉で解説させられる。本人が言っていたから本当なのだ。悪いおじさんが身内への殺意を口にしたとき、側近たちは異常なほどのうろたえ方を見せていた。王族の言葉が直ちに現実となることをみんな理解しているのだ。やらないなら私がやりますと偉いおばちゃんが言ったとき、阻止するために奴隷剣士が代わったのはやむを得ない判断だった。さらに大きな悲劇を防ぐためには仕方が無かったのだ。
 息子はつい先ほどまで敵対していた爺さんの口車に乗って、丸腰の民衆を巻き込みながら王宮へ攻め込もうとしてしまう。反体制派と一緒に再現ドラマの演出で喜んでいるうち虚構と現実の区別が付かなくなったのかもしれない。四半世紀来の証人が勢揃いしているからOKみたいな構図になっているけど、皆さんまともな判断はできているのだろうか。また悪いおじさんの罠だったらどうするつもりだ。
 ところが息子は親父の逸話を上回るバカ戦術で城壁を落としてしまい、ちょっと何なのかよく分からない仕組みで聖火をゴールさせて伝説を上塗りする。斜に構えていた観客は死ぬ。親父の武勇伝に思い出補正は無かったし、周囲の過剰な期待や焦りは間違っていなかった。どれほど理不尽であろうと結果は初めから決まっていて、全ての出来事が前振りだったことにされてしまう。バカまみれの描写ながら、観れば観るほど必然性の強化されていく恐ろしい物語。私はもう国歌だけ覚えて眠ります。おやすみなさい。

Maahishmathi samrajyam
マヒシュマティ王国よ

Asmaakam ajayam
千代に不滅なれ

Aa surya chandrathaara
太陽 月と星の

Vardhathaam abhivardhathaam
輝き続ける限り

 ところでアビバッダタームのアビは、阿鼻地獄の阿鼻でしょうか。

19-02-24 19:00 , 感想




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